表題  クリッピング法によって止血し得た十二指腸Dieulafoy型潰瘍の1例
著者   井野病院  内科  森本真輔 
発表誌 兵庫県医師会医学雑誌 第44巻第1号 別冊 
 平成13年8月30日発行
要旨 患者は87歳女性、平成12年1月16日に暗赤色の吐下血を来して、救急車にて当院に搬送された。緊急内視鏡検査を行ったところ、十二指腸球後部前壁に湧出性に出血している、明らかな白苔を伴わない露出血管を認めた。同部位にクリッピングを行い完全止血が得られた。
 球後潰瘍特に十二指腸下行脚の潰瘍からの出血に対する診断・治療は、出血部位を正面視しづらいため、困難であることが多い。しかし十二指腸のDieulafoy型潰瘍でも内視鏡的に出血部位が確認できる場合には、内視鏡治療が有効と考えられた。我々の検索し得た範囲では、十二指腸のDieulafoy型潰瘍に対する過去の内視鏡的止血報告のうち、クリッピング法による止血成功例は本邦では1例のみであった。
はじめに  上部消化管大量出血の原因としてDieulafoy潰瘍は、比較的稀ではあるが常に念頭に置くべき重要な疾患である。今回われわれは、十二指腸球後部前壁にDieulafoy潰瘍に類似した病変を認め、クリッピング法によって内視鏡的に止血し得たので報告する。
症例 ●患者87歳、女性
主訴吐下血
●家族歴:特記すべきことなし
●既往歴白内障にて点眼治療、骨粗鬆症・腰椎圧迫骨折による疼痛に対して消炎鎮痛剤を使用している。
●現病歴:平成11年末から食欲が低下していた。平成12年1月16日早朝に暗赤色の吐下血を来して、救急車にて当院に搬送された。
●現症:血圧98/60mmHg、脈拍104/分、整。眼球結膜に貧血を、心窩部に軽度の圧痛を認めた。
●入院時血液検査:赤血球234万、血色素量8.0g/dlと貧血を認めた(Table 1)。
Table 1)  Laboratory studies on admission.
Hematology
RBC 234×104/μl
Hb 8.0g/dl
Ht 22.8%
WBC 12700/μl
Platelet 23.0×104/μl
Blood chemistry
TP 5.4g/dl
ALB   2.8g/dl
BUN 42.4mg/dl
Crea  0.9mg/dl
T-Cho  126mg/dl
T-Bil 0.3mg/dl
GOT 20 IU/l
GPT  11 IU/l
ALP  217 IU/l
LDH  334 IU/l
CHE 3.07 IU/l
AMY 54 IU/l
Na 140mEq/l
K 4.80mEq/l
Cl 104mEq/l
BS 176mg/dl
●緊急上部消化管内視鏡検査:来院後速やかに内視鏡検査を施行したところ、十二指腸球後部前壁に明らかな白苔を伴わない湧出性に出血している露出血管を認めた(Figure 1)。同部位を出血源と判断し、クリッピングを施行した。クリップは出血部に対しほぼ垂直に把持され、一応の止血を認めた(Figure 2)。
 後療法として、持続点滴にてH2拮抗薬及び止血剤を投与した。新たな吐下血は見られず、血圧・脈拍数は安定し、貧血の進行を認めなかった。
●入院48時間後の上部消化管内視鏡検査クリップは残存していた。出血は認められず、完全止血と判定した(Figure 3)。
 その後、経口摂取を開始し、プロトンポンプ阻害薬などの抗潰瘍薬を経口投与した。経過は順調であった。
●22日後の上部消化管内視鏡検査クリップは脱落し、瘢痕像を認めた(Figure 4)。
Figure 1
緊急内視鏡検査:十二指腸球後部前壁に、湧出性に出血している露出血管を認めた。白苔は明らかではない。
Figure 2
緊急内視鏡検査:クリッピングを行い、一応の止血を認めた。
Figure 3
48時間後の内視鏡像:クリップは残存していた。完全止血と判断した。
Figure 4
22日後の内視鏡像:クリップは脱落し、瘢痕像を認めた。
考察  1898年Dieulafoyが、粘膜筋板を含む粘膜層までの粘膜欠損により細動脈を侵蝕し、しばしば致命的となる出血を来す疾患をExulceratio simplexとして報告して以来、同様の報告例が増加している。
 Dieulafoy潰瘍の臨床的な特徴として、1)潰瘍の既往を有する例が少ない、2)病悩期間が短い、3)輸血量が多い、4)出血点を確認できない例が多い、等がある.1)。 
 Dieulafoy潰瘍の病理学的定義を陳は、1)Ul-IIまでの潰瘍、2)潰瘍の最大径は10mm以下、3)潰瘍底露出血管の直径は1mm以上であると提唱している7)。内視鏡的に見た定義を平尾らは、1)CまたはM領域に存在する、2)潰瘍長径が10mm以下、3)露出血管が潰瘍に比し目立つものとしている8)。
 Dieulafoy潰瘍の本態をUl-IIまでの浅い粘膜欠損で破綻した粘膜下層を走る異常に太い血管とすると、胃だけでなく全ての消化管で発生してもよい。Dieulafoy自身も病巣部位を胃には限定しておらず、現在までに十二指腸や空腸、大腸での報告例がある1)2)5)6)。本邦の十二指腸Dieulafoy型潰瘍の報告例では、好発年齢・部位は特に見いだせない3)6)。
 Dieulafoy潰瘍の治療の現状は、まず内視鏡下の治療を試みてそのまま保存的治療で終了或いは待機手術という治療の体系化の方向で進んでいる。十二指腸のDieulafoy型潰瘍でも内視鏡検査にて出血部位が確認できる場合には、内視鏡治療が有効と考えられている。ただし内視鏡的止血法を施行する際には、部位により難易度に差がある。一般に球後潰瘍特に十二指腸下行脚の潰瘍からの出血は、出血部位を正面視しにくく、止血クリップが浅くなりがちで、そのため診断治療が難しい2)6)。ただ、手術困難な高齢者においては、内視鏡的止血法により完全止血することが特に重要である。そのため内視鏡的止血法を施行する際は、部位により内視鏡機種や止血法の選択をすることが重要と考えられている。それらの治療法が功を奏さない症例が外科的治療を受けることになるが、出血部位が正確に診断されていることが救命のために必要であり、そのために術中内視鏡検査も積極的に施行すべきと考えられる4)5)。
 今回我々は、十二指腸球後部前壁のDieulafoy型潰瘍に対して直視鏡によるクリッピング法で止血しえたが、我々の検索し得た範囲では、過去の内視鏡的止血報告のうち、本例以外にクリッピング法による止血成功例は本邦では1例のみであった6)。

クリッピング法によって止血し得た十二指腸Dieulafoy型潰瘍の1例を報告した。
なお本症例は第65回日本消化器内視鏡学会近畿地方会にて発表した。
文献 1)三宅周、岩野瑛二、佐々木俊輔他:十二指腸にみられたDieulafoy様潰瘍の1例.  Gastroenterol. Endosc. 1986;28:1911-1915
2)原忠之、山口修史、坂井徹他:高張Na-エピネフリン(HSE)液局注で止血し得た十二指腸Dieulafoy型潰瘍の3症例. Gastroenterol. Endosc. 1991;33:42-47
3)松本文子、水野孝子、鮫島美子他:純エタノール局注療法により止血治癒し得たDieulafoy's typeと思われる十二指腸潰瘍の1例. 関西医大誌 1987;39:430-435
4)柏木宏、宮田道夫、金澤暁太郎他:十二指腸Dieulafoy様病変の1治験例. 腹部救急診療の進歩 1989;9:483-486
5)西田宏二、川添聖治、東島正泰他:高齢者十二指腸球後部Dieulafoy潰瘍の1例. 日本老年医学会雑誌 1997;34:516-520
6)竹内学、加藤俊幸、古谷正伸他:内視鏡的に止血し得た十二指腸球部のDieulafoy様潰瘍の1例. ENDOSCOPIC FORUM for digestive disease. 1997;13:157-161
7)陳鋼民、河島浩二、林宏他:Exulceratio Simplex(Dieulafoy)の2治験例. 外科 1984;46:543-6
8)平尾雅紀、畠山広巳、石後岡正弘他:臨床からみたDieulafoy潰瘍 治療を中心として. 胃と腸 1987;22:1143-51