表題  マイトマイシンCの胆管内注入によって胆管の再開通が得られた総胆管浸潤を伴う胆嚢癌の1症例
著者   井野病院  内科  森本真輔 
発表誌 兵庫県医師会医学雑誌 第44巻第2号 別冊 
 平成13年12月20日発行
Summary A 76-year-old woman with complaint of jaundice and general fatigue was admitted to our hospital .Cytologic examination of bile, cholangiography, computed tomography and angiography revealed gallbladder cancer which invaded bile duct. Because of patient's refusal of operation, biliary endoprosthesis was performed, but reobstruction occured within a week. Then percutaneous transhepatic biliary drainage was performed, and 6mg/day of mitomycin c was administered in bile duct twice a week. Reopening of bile duct was obtained and a fistulization tube was inserted into the lower part of common bile duct.
要約 要約:症例は76歳、女性。全身倦怠感、黄疸を主訴として来院した。諸検査の結果、胆嚢癌の胆管浸潤と診断した。患者及び家人が手術を拒否したため、胆管ステントを挿入したが、2度にわたり1週間以内に再閉塞したため、PTCDを再度施行した。その後PTCDチューブからマイトマイシンCの注入を行った。総注入量108mgで胆管の再開通が得られ、内外瘻化チューブを総胆管下部にまで挿入留置した。
はじめに 胆道系悪性腫瘍は、早期発見が困難で、化学療法や放射線療法の感受性の低さもあり、治療成績は不良である。このたび、我々は胆管内へのマイトマイシンC(以下MMC)の反復注入によって胆管が再開通し内外瘻化し得た総胆管浸潤を伴う胆嚢癌の1例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する。
症例 ●患者;76歳、女性
●主訴;黄疸、全身倦怠感
●家族歴;特記すべきことなし
●既往歴;糖尿病、高血圧にて治療歴あり
●現病歴;平成12年4月12日頃より、下痢、全身倦怠感、黄疸が出現した。同年4月25日に当院を受診、総ビリルビン11.9 mg/dlと高値のため精査加療目的にて当日入院となった。腹部エコー・CTにて、胆嚢頚部から肝門部にかけて腫瘍及び肝内胆管の拡張を認めた(Figure 1)。ERCPを施行したところ、約26 mmにわたる総胆管狭窄を認めたが、ガイドワイヤーを狭窄部の上流にまで誘導することができず、引き続いてPTCDを施行した(Figure 2)。その際の胆汁細胞診でclass V(腺癌)との結果が得られた。さらなる精査加療目的にて転院した。angiography等の結果、胆嚢癌の胆管浸潤と診断された。患者本人・家族が手術を拒否したため、胆管ステントが留置されたが外瘻抜去後1週間以内に閉塞した。再度胆管ステントが留置されたが、それも同様に1週間以内に閉塞し黄疸が再発したため、PTCDが施行された。ぶどう膜炎の併発のため、眼科的治療も必要となり、平成12年10月30日、当院に転院となった。

  入院時現症
心窩部よりPTCDチューブが挿入されており、眼球結膜・皮膚に黄疸を認めた。
入院時血液検査;総ビリルビン10.9 mg/dlと黄疸を認め、ALP 831 IU/l、γ-GTP 228 IU/l、GOT 76 IU/l、GPT 55 IU/lと胆道系酵素の上昇を認めた。腫瘍マーカーはCEA 11.2 ng/ml、CA19-9 9600 U/mlと高値を示した(Table 1)。
Table 1) 
Hematology
WBC 18100/μl
RBC 284×104 /μl
Hb 9.6 g/dl
Ht 29.2%
Plt 37.4×104 /μl
TP 8.0g/dl
T-Bil 10.9 mg/dl
CK 26 IU/l
ALB 2.5g/dl
D-Bil 7.5 mg/dl
s-AMY 79 IU/l
BUN 15.0mg/dl
GOT 76 IU/l
Na 133 mEq/l
Crea 0.8mg/dl
GPT 55 IU/l
K 4.14 mEq/l
UA 3.8mg/dl
ALP 831 IU/l
Cl 102 mEq/l
T-CHO 237 mg/dl
LDH 311 IU/l
BS 169 mg/d
TG 283 mg/dl
CHE 1780 IU/l
CRP 3.3 mg/dl
γ-GTP 228 IU/l
CEA 11.2 ng/ml
CA19-9 9600 U/mlHt
  入院時腹部CT
肝門部を中心に約6cm径の不整な腫瘍を認めた。初回入院時と比べて腫瘍は増大傾向を示した(Figure 3)。

  入院時の胆道造影
Wallstentが留置されているが、総胆管から十二指腸への造影剤の流出を認めず、左右肝管合流部より少し下流で総胆管が完全に閉塞していた(Figure 4)。

患者及び家族が副作用の強い治療を望まなかったため、マイトマイシンC(以下MMC)の胆管内注入を試みることにした。MMCと癌病巣の接触を良好にするため、注入に先立って生食100mlで胆管洗浄を行った。MMCの1回量は6mg、PTCDチューブの閉鎖時間は1時間としてみた。注入は週2回のペースで行った。発熱、疼痛、黄疸の増悪、白血球の減少など認めなかった。総ビリルビン、胆道系酵素は順調に低下した。

  MMC計72mg注入時の胆道造影
総胆管はわずかに開通し、十二指腸へ造影剤が流出した(Figure 5)。有効と考えられ、本治療を継続した。PTCDチューブの閉鎖時間については、1時間では特に合併症を認めず、以降は2時間としてみたが、問題なく治療を継続できた。

  MMC計108mg注入時の胆道造影
総胆管はさらに大きく開通し、造影剤は十二指腸に速やかに流出した(Figure 6)。総ビリルビン、GOT、GPT、ALP、γ-GTPはほぼ正常化していた。
 そこでクリエートメデイック社製の10Frのシリコーン内瘻用カテーテルを狭窄部を越えて総胆管下部にまで挿入、留置した(Figure 7)。カテーテルは皮下に埋め込まず体外に出したままで普段はキャップで閉鎖しておくことにした。
 内外瘻化後、胆道系酵素は上昇したが、黄疸は出現せず、炎症反応も陰性であり、経過良好と判断(Figure 8)、退院となった。退院後はUFTを1日3カプセル(テガフールとして300mg)服用し4カ月間ほどは経過は良好であったが、その後癌の肝内転移が出現し、肝不全のため死亡した。
Fig.1
(初回入院時の腹部CT):胆嚢頚部から肝門部にかけて約5cm径の腫瘍を認めた。肝内胆管は拡張していた。
Fig.2
(初回入院時の直接胆道造影):ERCPにて総胆管は約26mmの長さにわたって狭窄していた(左)。ガイドワイヤーを狭窄の上流に挿入することができず、PTCDを施行した(右)。
Fig.3
(再入院時の腹部CT)肝門部を中心に約6cm径の不整な腫瘍像を認めた。初回入院時の腹部CTと比べて腫瘍の増大を認めた。
Fig.4
(入院時の胆管造影)左右肝管合流部より少し下流で総胆管は完全閉塞を来していた。
Fig.5
(MMC計72mg注入時の胆管造影)総胆管はわずかに開通し、十二指腸へ造影剤が流出した。
Fig.6
(MMC計108mg注入時の胆管造影)総胆管は大きく開通し、十二指腸へスムーズに造影剤が流出した。
Fig.7
内外瘻化チューブを総胆管下端まで挿入・留置した。
Fig.8
経過表
考察 胆道系悪性腫瘍は、早期発見が困難で、化学療法や放射線療法の感受性が低く、治療成績は良くない。そこで病巣部の開存性を図り閉塞性黄疸を治療する目的で各種内瘻化術が試みられている。メタリックステントを用いた胆道内瘻術は、従来のプラスチックステントを用いた内瘻術にはない利点を有するが、胆管粘膜に腫瘍が存在する症例では経過とともにwireが腫瘍内に埋没し、腫瘍が内腔に突出するため胆管径はステント径よりも小さくなる。特に腫瘍volumeが大きな症例では同様の機序で早期に再閉塞を来し外瘻チューブの抜去が困難となることもある。このため胆管内腔に腫瘍が存在する場合には抗腫瘍効果のある併用療法が必要と考えられる1)。

悪性閉塞性黄疸症例では、術前の減黄及び検査時間は短くない。栄養不良なこれら症例に、全身への悪影響を避け、術前減黄期間の腫瘍増殖を多少とも抑制する目的で胆管内への抗癌剤投与を試みた報告があり、更に切除不能症例の治療にも適応を拡げた報告もある。抗癌剤は、胆管内に投与すると胆道癌の病巣内には高く吸収され、末梢血中にはあまり移行せず全身的な副作用は殆ど見られない。その適応に関しては、癌巣が胆管内に露出していることが最も大切であり、実施にあたっては、投与薬剤、量、間隔、投与後の減黄瘻の閉鎖時間等の問題がある2)。報告によると、胆管内投与に最も多く使用された薬剤はMMCで、次いでアドリアマイシン(ADM)の症例が多い3)4)5)。投与量についてはMMCでは1回2〜10mg、週2回、総投与量は20〜80mgとする報告が多いが、5-FUの連日投与の報告もある5)。減黄瘻の閉鎖時間については3時間程とする報告があるが、特に決まったものはない。欠点として、胆管内注入や胆汁うっ滞による合併症の危惧があること、制癌効果が期待されるのは抗癌剤と接触する表層のみで、深部への抗癌剤到達性には問題があることが指摘されている。そのため、切除不能症例に対しては適当な全身的制癌化学療法の併用が必要と考えられる2)。また胆管腔内照射、マイクロ波凝固療法、温熱療法等、他の治療法を併用すれば有効率も高まることが期待される6)が、操作はそれだけ複雑となり副作用も増えることが予想される5)。

今回、我々は、手術拒否の、総胆管浸潤を伴った胆嚢癌症例に対して、MMCの胆管内投与を試み、総投与量108 mgで再開通が得られた。特に合併症を起こすことはなかったが、注入に先立って胆管洗浄を行ったこと、及び減黄瘻の閉鎖をやや短時間に設定することが胆管炎の発生を防止した可能性があり、合併症の観点からは減黄瘻の閉鎖時間はやや短い目から開始し、問題なければ延長する方がよいと考えられた。総投与量は既報と比較して多いが、本症例では順調に総ビリルビンや胆道系酵素が低下しており、改善傾向が見られれば治療を続けるべきであると考えられた。胆管内外瘻化後にUFTの内服を開始し経過は良好で、肝転移による肝不全のため死亡するまでの数カ月間は自宅で過ごすことができた。
結語 1)胆嚢癌の胆管浸潤による完全胆管閉塞をきたした手術拒否症例に対し、PTCD tubeより抗癌剤(MMC)を注入し、胆管の再開通が得られた。
2)本法は簡便で、特に副作用は認められず、有効な治療法の乏しい胆道癌症例に対する補助療法として有用と考えられた。
3)抗癌剤注入に先立って胆管洗浄を行うこと及び減黄瘻の閉鎖時間を最初は短く徐々に延長することで、治療に伴う胆管炎を防止できる可能性があると考えられた。
4)本法の効果が及ぶのは、胆管粘膜表層のみであり、適当な全身制癌療法の併用が必要と考えられた。
文献 1)齋藤博哉、桜井康雄、高邑明夫ほか:メタリックステントによる悪性胆道狭窄の治療. 胆と膵 16:931-938,1995
2)前田迪郎、泉明夫、金山博友ほか:胆道系悪性腫瘍に対する胆管内制癌剤投与. 癌の臨床 27:330-336,1981
3)伊坪真理子、亀田治男:胆嚢癌、胆管癌. 臨床成人病1987年増刊号 474-479,1987
4)轟健:胆管癌の内科的治療(化学療法). 日本外科学会雑誌 98:479-483,1997
5)西連寺隆之、長尾恒、渡邊建詞ほか:5-FUの胆管内投与により内瘻化し得た肝門部胆管癌の2症例. 日本臨床外科医学会雑誌 54:3126-3130,1993
6)山田宏之、佐藤元昭、馬場祐康ほか:経皮経肝胆道鏡下マイクロ波凝固療法とAdriamycin胆管内投与にて胆管の再開通が得られた肝門部胆管癌の1例. 岩手県立中央病院医学会雑誌 31:75-79,1991