第52回日本病院学会発表より

介護保険の施設における 
入所者の満足度とその影響
演者:井野節子(井野病院・しおさきヴィラ事務局長)
    三原美代子 ・ 中水三知子
指導:新庄浩二(神戸大学経済学部)


 介護保険が始まって2年が経過した。その間デイケアサービスや入所サービスなど、施設を利用したサービスは長足の勢いで増加した。21世紀の高齢社会を考えるとき、施設における介護サービスを含む全体サービスの質を担保することは、社会全体の不安を除去し、安定・安心の日本社会を創ることに繋がる。
 わたしは、自分の施設の要介護者の状態が改善されている事実について、患者満足度を図る評価指標を作成して実態を調べた。
 ・ ・ ・ 評価票
@ 評価表の作成にあたっては、満足度のカテゴリーを8つに分け、日本医科大学の高柳先生のご協力と、私の所属するNPO「21世紀癒しの国のアリス」に参加された全国の介護担当者のご協力と、神戸大学経済学部の新庄教授の指導をいただいて作成した。
8つのカテゴリーを51の小項目に分け評価表を作成した。ワークショップと現場の状況から、スタンダードVer4を作成するに至った。私の所属する介護老人保健施設でのプレテストを通してその成果と考察を述べる。
A 特 徴
@ わかりやすさ : ユーザーと介護者をわかりやすくするためニックネームをつけた。
 ユーザー=アリス
 介護者=ハイジ
 第3者の評価者(アリスの気持ちを評価できる者)=アシュラーと呼ぶ
(アシュラーはアリスの気持ちを理解するための特別の研修を受けた者である)
A 満足度(主観に基づく)を測る
 ユーザーの満足度には絶対的水準に基づくものと、期待的水準に基づくものがあって、非常に個人差があるとされている。このたびの作成にあたっては、我々がアリスと呼ぶ、要介護者の気持ちを主眼とした。なぜなら、集団的、絶対的基準は多くの機関からすでに提唱されているからである。
 更に、生活に重きをおいた介護施設の場合には、どうしても個別対応が満足度の大きな要素になると考えたからである。
B 答えを点数化する : 点数は1から4までの4段階とする。
  全くそのとおりであるもの              =4点
  そのとおりであるが、まあまあ当てはまるもの  =3点
  どちらかといえばいいえ               =2点
  該当しないもの                    =1点 とする。 
  また、重要な項目には1つ8点・6点・2点・0点と言うような点数付けをした。 
  点数が高いほうが満足度は高い。
C 各小項目には、答えられないNAという答えが無いように考慮した。 
  (手引きのねらいを参照)
D A・B 2種類の評価表で質問
  A=ユーザー自身、またはご本人の意思をよく理解している家族(a)、または施設の
    者でユーザーの気持ちを理解した代理人(b) =advocator による評価とする。
  B=施設の介護担当者(ハイジ)が使用。
    また、第三者として施設を評価するアシュラーは、Bを使用して評価する。

従って、このたび調査した資料は 評価表のA(アリスor advocator)とB=アシュラー
B=ハイジ の得点を基とした。
E 介護度を基準とする
アリスの背景については、介護度を基本とし、基本的属性を考慮した。
F 評価者の名前を記入することで、責任を持って記入してもらうこととした。また、評価のばらつきは今後の教育や指導に繋げられるという利点をねらった。
G ターミナル(癌の末期・疾患で末期症状・衰弱激しく末期症状)の人をケアしている場合に限りボーナス点を加算する。このたびは、相関をみるため、この項目は排除して処理した。
H 自立のアリスの場合、オムツをしていないので、項目5-8・5-9については、満足度は高いものとして4点を選ぶこと。

《1》 介護度別分析
《2》 要介護者=アリスと 介護者=ハイジとアシュラーの評価の相違考察
《3》 ロイヤリテイー(施設に対する忠誠心)・ロイヤリテイーと相関項目
    並びに不満足項目
  図表1より 介護度が高いほど満足度の点数は低く、その中央値も低い。
  介護状態にあることは、自身の思うとおりに体が動かないことで、満足度が低いと思われる。
  図表2より 介護者=ハイジの点数は総合的にみて、ユーザー=アリスより点数が高い。
    ばらつきも大きい。アシュラーの評価は、アリスの気持ちとのばらつきが少ない。
# アシュラーは特別研修受けただけあって、アリスの気持ちを代弁するにふさわしい。
# 介護者=ハイジは、自分が思っているほどアリスが満足していないことを知るべきである。
  従って、介護者側からの一方的な押し付けの介護とか、あるべき論的な介護は本当にアリ
  スに満足を与えているか?再考を要する。
# 全般的にハイジやアシュラーの分散はアリスの分散より少ない。よって、アリスは個人差が
  大きいことがわかる。→個別評価の重要性。
  ★図表1より、介護度が高いアリスにおいては女性のほうが男性よりも満足度が高い。
# 女性のほうが生物学的に我慢強く、要介護を受け入れる素養が高いのかもしれない。
  また、日常生活の仕方が女性のほうがうまいのかもしれない。
  ★アリスにおいては、介護度いかんに関らず、施設に対するロイヤリテイーは高い。
# 不満足な部分があるが、施設介護を望んでいる今の日本の現状を肯定する結果か?
  また、この調査対象は、1つの自信を持った施設だけの調査なので、今後多数のランダム
  な施設調査をして再考察する必要がある。
 
《満足度が高い項目》
  図表2図表3を参照

《 総  括 》  満足を高めるために!!
・医療の安心を確保     ・人格を傷つける幼児語や、禁止事項はやめる
・スキンシップの大切さ   ・自分で出来ることへの満足度  
・相談に乗ること       ・食・睡眠・排泄など基本的生活の保障 
・財布は家人に委ねられている場合が多いのは問題 
  介護保険は介護という目に見える行為だけを対象にしているが、高齢者の全人的安心を担保するためには人間性の発露の確保や、精神的な援助と自立の問題についても考慮するべき時期がきていると思われる。 

    
【例1】男性A:89歳 要介護度2
緑内障で、右眼摘出。左眼もほとんど見えない。集団のレクやリハビリには進んで参加しない。自室で浪曲を聞くのが楽しみ。 ⇒ 満足度評価 ⇒ 改善案
(改善策) 入浴が好きだということで、1週2回の入浴日を3回に増やした。
⇒ 入浴後大きな声で「ありがとう・ありがとう」入浴後のスポーツ飲料をおいしく飲み、「ああーおいしいご馳走様」以前はなかった声 ⇒ 職員感動・賛賞する ⇒ 腰痛の訴えと痛み止めの座薬の要求がなくなった ⇒ 入浴後の食事時間を本人の食べたい時間に合わせた ⇒ ナースコールの件数激減 & 1日中温和な表情ですごされている。
【例2】女性B 83歳 要介護度3
職員の声かけに対し発語なし。 ⇒ 満足度評価(眉の薄いのを気にしていた)⇒改善案
(改善策) お化粧とおしゃれ推進 ⇒ 言葉が出てきた。ネイルをせがむように。 ⇒ 他の入所者との会話が生まれてきた。 オムツがトイレ使用になった。
結果 : 家族の受け入れが出来て、在宅になる。
【例3】女性C 92歳 要介護度5
脳梗塞後遺症にて左片マヒあり。閉じこもりがち。表情乏しい。会話少ない。夜睡眠浅い ⇒ 満足度評価 ⇒ 若い頃から歌が好き ⇒ 改善案 
(改善策) 集中的な音楽療法実施 ⇒ 表情がにこやかに ⇒ 笑い・会話が多くなる&食事介助が必要なくなる&夜間睡眠良好&喜怒哀楽がはっきりして、意思の確認が容易になり、介護時間が短縮された。
 
 われわれの施設で、別紙評価スタンダードを使用し入所要介護者を評価して分かったことは、従来は厚生労働省のガイドラインを満足すればいいだけの考えで、個別対応に十分配慮していなかったことへの反省であった。従来の全体評価では気づかなかったが、このたびの評価は、要介護者個々人の特性を見なければならない為、またとない機会を施設と介護者=ハイジに与えてくれた。個別対応を考える機会が出来たことにより、介護者=ハイジ自信が、アリスについて新鮮な発見を経験した。発見が生まれることにより、自然に個々に対する改善策が出てきた。個別対応の改善が出来たことによって、要介護者の介護度が低下した。これは、将に職員のモチベーション効果である。従来の全体評価では、施設管理者側と、末端現場のギャップを埋めることはできなかった。よいサービスも末端現場で実行されなければ、無いものに等しい。これはサービス業体の鉄則である。職員のモチベーションを高め、入所要介護者の満足度を高め、結果、介護度が低下することは、大きく社会的費用の軽減につながる。


評価項目 図表1 図表2 図表3