表題  内視鏡的切除を行った十二指腸乳頭部癌の1例
著者   井野病院  内科  森本真輔 他
発表誌 兵庫県医師会医学雑誌 第45巻第1号 別冊 
 平成14年8月31日発行
Key words 十二指腸乳頭部癌、内視鏡的乳頭切除術、姑息的適応
Summary A 75-year-old man , who had past history of Billroth II gastrectomy, complained of right hypochondrial discomfort and admitted to our hospital. Blood chemistry test revealed elevation of alkaline phosphatase(ALP) and γ-glutamyl transpeptidase(γ-GTP). Abdominal ultrasonography revealed dilatation of bile duct and multiple liver tumors.
Computed tomography(CT), magnetic resonance imaging(MRI), magnetic resonance cholangiopancreatography(MRCP) and endoscopy revealed exophytic non-ulcerated tumor of papilla of Vater and metastatic liver tumors. We thought that surgical treatment was difficult ,therefore resected the tumor endoscopically with use of cutting current. His symptom was relieved and ALP and γ-GTP were normalized. The pathological diagnosis was moderately differentiated adenocarcinoma with adenoma and invasion to proper muscular layer of duodenum. After two weeks we recognized that papillary orifice was open and tumor wasn't extant endoscopically. There were no major complications. Endoscopic papillectomy is useful in the palliative treatment of carcinoma of the papilla of Vater.
要約 症例は75歳、男性。十二指腸潰瘍穿孔にて幽門側胃切除、ビルロートII法で再建された既往がある。右季肋部不快感が出現、血液検査で胆道系酵素の上昇を、腹部超音波検査にて胆道系の拡張、多発性肝腫瘍を認めた。腹部CT、MRI、MRCP及び十二指腸内視鏡検査の結果、十二指腸乳頭部癌による胆膵管合流部の閉塞及び肝臓転移と診断した。外科的処置は困難と考え、切開電流を用いて内視鏡的乳頭切除を行った。胆管、膵管の開口部を露出させることができ、症状は軽減し、胆道系酵素は正常化した。病理所見は僅かに腺腫成分を伴った中分化型腺癌で一部十二指腸固有筋層へも浸潤していた。2週間後の内視鏡検査にて、胆管・膵管開口部は確認でき、粘膜面に明らかな腫瘍の残存を認めなかった。特に大きな合併症は認めなかった。内視鏡的乳頭切除術は十二指腸乳頭部癌の姑息的治療として有用であると考えられた。
症例 患者:75歳、男性。
主訴:右季肋部不快感、胆道系酵素の上昇
家族歴:特記すべきことなし
既往歴:33歳時に十二指腸潰瘍穿孔にて幽門側胃切除・ビルロートII法で再建
現病歴:レビー小体を伴う痴呆で他院に通院中であった。平成13年7月頃から右季肋部不快感を自覚し、血液検査で胆道系酵素の上昇を指摘され、腹部超音波検査で膵頭部腫瘍及び肝転移が疑われ、精査加療目的にて同年8月3日、当院に紹介入院となった。
入院時現症:上腹部に手術後の瘢痕創を認める以外に特記すべき所見を認めなかった。入院時血液検査:ALP、γ-GTPが高値を示し、軽度の貧血を認めた。CEA、CA19-9は基準値内であった(Table 1)。
腹部CT:肝内胆管から総胆管下部にいたる胆道系全体及び主膵管の拡張を認めた。十二指腸乳頭部の腫瘍は指摘できなかった。また肝内に造影CT上、後期相でリング状に造影される多発腫瘍を認め、転移性腫瘍と考えられた(Figure 1)。
腹部MRI・MRCP:十二指腸乳頭部の腫瘍、総胆管・主膵管の拡張及び合流部の腫瘍による閉塞を認めた。総胆管末端にケバ立ち像を認め、腫瘍の胆管浸潤が疑われた。多発性肝腫瘍を認めたが、T2でhigh、T1でring状であったため転移が疑われた(Figure 2)。
十二指腸内視鏡:乳頭部に亜有茎性の腫瘍を認めた。その表面は顆粒状であり、潰瘍形成は認めなかった。開口部が不明であり、胆・膵管造影はできなかった。生検を行い、引き続いてガストログラフィンを注入した。主乳頭に一致して長径35mmの亜有茎性の隆起性病変及び十二指腸壁の硬化像を認め、固有筋層への浸潤が疑われた(Figure 3)。
 生検の結果は中分化型腺癌であった。
 根治は不可能、腹部手術の既往があり外科的乳頭局所切除も本例には困難で、胆膵管の内瘻化の適応と考え、経皮経肝的胆道ドレナージ(PTCD)を施行したが、痴呆症のため患者がドレナージチューブを自己抜去した。そこで、家族からインフォームド・コンセントを得て、胆管及び膵管へのアクセス目的で平成13年8月21日に内視鏡的乳頭切除術を行った。後方斜視の十二指腸内視鏡を用いて、腫瘍をスネアで絞扼し切開電流で切除した。切除直後に胆管口から胆汁が噴出するのが確認された。胆管にはステントを挿入留置したが、膵管口は確認できずボスミン入り生理的食塩水の散布のみを行い終了した(Figure 4)。
 術後に軽度の血清アミラーゼの上昇及びヘモグロビンにして2 g/dl程度の貧血の進行を認めたが、いずれも保存的に改善し、重篤な合併症は認めなかった。
病理組織所見:わずかに腺腫成分を含んだ中分化型腺癌で、一部十二指腸固有筋層への浸潤を認めた。切除断端は陽性と診断された。
 また、酵素抗体法染色にて、腫瘍組織全体にCA19-9が陽性であった(Figure 5)。
2週間後の内視鏡検査:切除面は潰瘍化しており、粘膜面には腫瘍の残存を認めず、潰瘍辺縁からの生検でも腫瘍組織の残存を認めなかった。また胆管口は大きく開口し、膵管口も明瞭に確認できた。胆管ステントを抜去し胆管・膵管造影を行い、胆管下端の壁不整・硬化、副膵管の開存を認めた(Figure 6)。
 その後、本例は胆道系酵素も正常化し、経過良好のため退院となった。
約1カ月、自宅で過ごすことができたが、突然の吐血にて緊急入院となった。緊急内視鏡検査を行い、吻合部潰瘍からの出血と診断、クリッピングと高張食塩水・エピネフリン局注(HSE)によって内視鏡的に止血した。その際、十二指腸乳頭部に癌の局所再発が認められたが、胆管口は大きく開口していた。その後肺炎を発症し経過が遷延するうちに、肝転移巣が増大し、肝不全で永眠された。

Table 1)  Laboratory studies on admission.
血液一般検査
WBC 5900 /μl
RBC 355×104 /μl
Hb 10.1 g/dl
Ht 32.9 %
Plt 39.8×104 /μl
血清学的検査
HBsAg (−)
HCV-Ab (+)
腫瘍マーカー
α-FP 3.0 ng/ml
CEA 3.6 ng/ml
CA19-9 23 U/ml
血液生化学検査
TP 7.2 g/dl
ALB   3.9 g/dl
BUN 19.2 mg/dl
Crea 0.7 mg/dl
UA 5.6 mg/dl
T-Cho 163 mg/dl
TG 86 mg/dl
T-Bil 0.4 mg/dl
AST 30 IU/l
ALT 37 IU/l
ALP 1709 IU/l
LDH 240 IU/l
CHE 3850 IU/l
γ-GTP 841 IU/l
CPK 52 IU/l
sAMY 180 IU/l
Na 142 mEq/l
K 4.36 mEq/l
Cl 101 mEq/l
BS 130 mg/dl
CRP 0.2 mg/dl
Figure 1.
右;胆道系全体及び主膵管の拡張を認めた。
左;造影CT上、後期相でリング状に造影される多発性肝腫瘍を認めた。転移性腫瘍と考えられた。
Figure 2.
MRI(上)・MRCP(下):十二指腸乳頭部の腫瘍(矢印)による、総胆管・主膵管の拡張及び合流部の閉塞を認めた。総胆管末端にケバ立ち像を認め(矢じり)、腫瘍の胆管浸潤が疑われた。
Figure 3.  十二指腸内視鏡
左;乳頭部に亜有茎性の腫瘍を認めた。表面顆粒状で、潰瘍形成は認めず、開口部は不明であった。
右;ガストログラフィンを注入した。長径35mmの亜有茎性の隆起性病変及び十二指腸壁の硬化像を認め、固有筋層への浸潤が疑われた。
Figure 4.
左上:亜有茎性の露出腫瘤型十二指腸乳頭部癌を認めた。
右上:後方斜視の十二指腸内視鏡を用いて、腫瘍をスネアで絞扼し、切開電流で切除した。
左下:切除直後に胆管口から胆汁が噴き出すのが確認された。
右下:胆管にはステントを挿入留置したが、膵管口は確認できずステントは挿入不可のためボスミン生食を散布して終了した。
Figure 5. 病理組織所見:
上左;わずかに腺腫成分を含んだ中分化型腺癌であった。
上右;一部十二指腸固有筋層への浸潤を認めた。
下;酵素抗体法にて、腫瘍組織全体にCA19-9が陽性であった。
Figure 6.
左:2週間後の内視鏡像
 切除面は潰瘍化し、粘膜面の腫瘍残存は肉眼的にも組織学的にも認めなかった。胆管口は大きく開口し、膵管口(矢じり)も明瞭に確認できた。
右:ERCP像
 胆管下端の壁不整・硬化像及び副膵管の開存(矢印)を認めた。
考察 十二指腸乳頭部腫瘍の診断・治療法は未だ十分に確立されていない。本疾患の質的診断を内視鏡所見と生検診断から行うのは困難であり、そのため腺腫症例に対してでさえ外科的切除が第一選択とされてきた。外科的切除としては、膵頭十二指腸切除が基本術式とされているが、近年、幽門輪温存膵頭十二指腸切除1)、乳頭の局所切除2)など縮小化の傾向がみられるようになってきた。
 一方、内視鏡的なアプローチは1983年鈴木らが内視鏡的に摘除した腺腫、癌各1例を報告している3)。以来内視鏡的乳頭切除術の報告が続いているが、症例数が少なく有用性と問題点が必ずしも明確ではなく、一般には広く普及していない。
1988年Lambertら4)、1989年Ponchonら5)が52例の乳頭部病変に内視鏡的アプローチを行っているが、結論として癌症例には外科的切除が第一選択であるとしている。Binmoellerらの検討によると内視鏡的に切除可能な範囲は十二指腸固有筋層のレベルまでとされており6)、そのため根治的切除の適応については確実な進展度診断が重要であり、管腔内超音波検査法(IDUS)の併用による適応決定が最も妥当である7)と考えられている。
 Farrellらは、カニュレーションが困難な腫大した乳頭10症例に対して胆管膵管へのアクセス目的で乳頭切除術を行っている8)が、この適応については異論も多い。
 手技的には、後方斜視の十二指腸内視鏡を用いて乳頭を正面視し、肛門側からスネアをかけて切開電流で切除する方法が多用されている。切除に際するHSEの局注は、胆膵管の存在により乳頭部開口部隆起すなわち病変部の挙上は不十分で、むしろ視野を悪くする恐れがあるために用いない方が望ましい7)とされている。
 早期合併症としては、1)穿孔、2)出血、3)急性膵炎、4)胆管炎(閉塞性黄疸)があげられる。穿孔については開口部隆起から口側隆起の範囲であれば、安全に切除可能であるとの報告7)があり、実際に穿孔例の報告は筆者の検索し得た範囲ではなかった。出血に関しては軽度にとどまることが多い7)ようである。急性膵炎については、副膵管の非開存例が開存例に比し有意に血清アミラーゼの高値を認め、副膵管開存の有無の評価は重要であるとの報告7)9)があり、またステント留置の有無で血清アミラーゼの最高値に統計学的有意差がない10)との報告があり、今後の検討が必要である。
 病理学的には、断端の高周波の切開電流によるburning effectのため完全切除の診断が困難であり、腫瘍の遺残を生検により確認する必要がある10)とされている。
 今回我々は、幽門側胃切除・ビルロートII法再建術後の十二指腸乳頭部癌に対して、姑息的適応のもと、内視鏡的十二指腸乳頭部切除を行った。重篤な合併症は認めなかったが、切除直後に膵管口が確認できなかったことは反省すべきと考えられる。元々膵管が乳頭部腫瘍のため閉塞していたのに膵炎症状を起こしていなかったが、それは副膵管が開存していたためであり、又同じ理由で術後に重症膵炎を来さなかったと考えられた。
 本例は肉眼的には露出腫瘤型で、一部に腺腫様の腺管増生を伴った中分化型腺癌で、CA19-9 が瀰漫性に陽性であった。乳頭部胆管及び膵管から発生したものは潰瘍型でより分化度の低い管状腺癌であることが多く、CA19-9は大十二指腸乳頭粘膜では陰性、共通管部では弱陽性、乳頭部胆管及び膵管では強陽性であること11)12)から、おそらくadenoma-carcinoma-sequenceによって共通管から発生したものと考えられた。
結語 幽門側胃切除・ビルロートII法再建術の既往がある、十二指腸乳頭部癌症例に対して、姑息的適応として内視鏡的切除を行った。症状や検査データは改善し、重篤な合併症は認めなかった。本法は慎重に行えば安全・有用であり、特に胆道内瘻化の適応症例で、PTCD困難で胆膵管開口部が確認できない場合には試みる価値があると考えられた。
 本論文の要旨は第68回日本消化器内視鏡学会近畿地方会において発表した。
文献 1)羽生富士夫、新井田達雄、今泉俊秀. 十二指腸乳頭部癌の外科治療と問題点. 胆と膵 1995;16:1041-1045
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3)鈴木賢、韓東植、村上義史ほか. 内視鏡的に摘除した十二指腸乳頭部腫瘍の2例. Progress of Digestive Endoscopy 1983;23:236-9
4)Lambert R、Ponchon T、Chavaillon A et al. Laser Treatment of Tumors of the Papilla of Vater. Endoscopy 1988;20:227-231
5)Ponchon T、Berger F、Chavaillon A et al. Contribution of Endoscopy to Diagnosis and Treatment of Tumors of the Ampulla of Vater. Cancer 1989;64:161-167
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