表題  経乳頭的胆管ドレナージが有用であった胆嚢結石に伴う胆道出血の1例
著者   井野病院  内科  森本真輔 
発表誌 兵庫県医師会医学雑誌 第45巻第3号 別冊 
 平成15年4月30日発行
Key Words 胆嚢結石、胆道出血、経乳頭的胆管ドレナージ
A case of hemobilia with chronic cholecystolithiasis in which transpapillary biliary drainage was effective
Summary A 91-year-old man was admitted to our hospital with hematemesis. Hemobilia with chronic cholecystolithiasis was suspected by blood chemistry test, abdominal CT, and upper gastrointestinal endoscopy. Endoscopic retrograde cholangiopancreatography(ERCP) was done. Duodenoscopy revealed that blood clot was protruding through the papillary orifice. Subsequently endoscopic retrograde biliary drainage(ERBD) was done and hemorrhage was stopped thereafter.
要旨 症例は、91歳、男性。吐血にて入院となった。血液検査、腹部CT、上部消化管内視鏡検査から胆嚢結石による胆道出血を疑い、ERCPを施行した。十二指腸乳頭から血液の排出が認められ、胆道出血と診断した。ERBDチューブを挿入留置し、止血が得られた。
はじめに 胆道出血は、上部消化管出血による吐下血症例の2〜5%といわれ、比較的稀な病態である。診断は困難で、原因不明の消化管出血として開腹され、摘出された胆嚢により胆嚢内出血と診断し得た症例も多い。
 今回、我々は、胆嚢結石に伴う胆道出血に対して胆管ドレナージを行い止血し得た1例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。
症例 患者:91歳、男性。
主訴:吐血
家族歴:特記すべきことなし
既往歴:脳梗塞、狭心症、慢性腎不全等で通院中。
    胆嚢結石による入院歴あり。
現病歴:上記疾患のため内服加療中であった。平成14年8月28日、突然に暗赤色の、量にして洗面器3分の1程度の吐血が出現し、当院外来を受診した。腹部疝痛の自覚はなかった。緊急で上部消化管内視鏡検査を行ったところ、胃内に多量の血液貯留を認めたが、出血部位の確認はできなかった。精査加療目的にて入院となった。

入院時現症:血圧124/64 mmHg、脈拍数92回 /分。心窩部に軽度の圧痛を、眼瞼結膜に貧血を認めたが、黄疸は認めなかった。
入院時血液検査:赤血球数298万 /μl、Hb 10 g/dlと貧血を、血小板数は14.2万 /μl、総ビリルビン1.7 mg/dlと軽度高値、また肝胆道系酵素の上昇を認めた(Table 1)。
入院時腹部CT:胆嚢内に結石及び軟部組織様の構造物、胆管内に結石様陰影を認めた(Figure 1)。両側胸水、心嚢水も認めた。なお本症例は胆嚢結石にて入院歴あり、その際の腹部CTも合わせて呈示する(Figure 2)。

入院後経過;とりあえず絶食の上、止血剤の持続点滴、オメプラゾールの点滴側注を行い、経過を見た。血圧が80〜90代に低下したため、塩酸ドブタミンの持続注入を開始した。翌日、赤血球数204万 /μl、Hb 6.8 g/dlと貧血が進行、血小板数は7.6万 /μlへと減少、総ビリルビンは2.9 mg/dlへと上昇した。
入院翌日の上部消化管内視鏡検査;今回も出血部位の確認はできなかったが、十二指腸に血液の貯留を認め胃内にはあまり認めず、十二指腸内での出血が疑われた(Figure 3)。
 内視鏡検査後に、濃厚赤血球2単位を輸血した。輸血後、血圧が安定したため、塩酸ドブタミンは中止した。
 以上のことから胆道出血を疑い、内視鏡的逆行性胆膵管造影(ERCP)を施行した。

ERCP所見;8月30日、ERCPを施行した。十二指腸乳頭から血液の排出を認め、胆道出血と確診した。総胆管内に一部円形、一部棍棒状の透亮像を認め、結石・血腫が疑われた。内視鏡的乳頭切開術(endoscopic sphincterotomy:EST)を行わず7Frの経鼻胆管ドレナージ(endoscopic nasobiliary drainage:ENBD)チューブを内視鏡的に留置し、約10分で終了した。しかし1時間後に患者がチューブを自己抜去したため、再びERCPを行い、ボスミン入り生理的食塩水で胆管洗浄後に7FrのERBDチューブを留置した(Figure 4, 5)。
 その後明らかな出血は見られず、血小板数は回復、胆道炎症も改善し、経口摂取も開始できた。9月6日に再度ERCを行い、総胆管内に透亮像を認めバスケットカテーテルで排除したが、暗赤色の凝血塊を認めるのみで、明らかな結石は認めなかった。 その後ENBDチューブを留置し、胆汁が淡褐色透明になり胆道系酵素が正常化したのを確認後にチューブを抜去した。経口摂取も開始でき経過良好で胆嚢摘出術も考慮していたが、残念なことに、本症例は肺炎から心不全を併発して9月28日に永眠され、胆嚢の組織像は得られていない。
Table 1) 
WBC 7000 /μl
RBC 298×104 /μl
Hb 10 g/dl
Ht 29.3%
Plt 14.2×104 /μl
CEA 2.0 ng/ml
CA19-9 31 U/ml
HBsAg (−)
HCV-Ab (−)
TP 5.9 g/dll
T-Bil 1.7 mg/dl
ALB 3.7 g/dl
AMY 696 IU/l
ALB 3.7 g/dl
D-Bil 1.3 mg/dl
Na 142 mEq/l
BUN 33.3 mg/dl
AST 1489 IU/l
K 3.44 mEq/l
Cre 2.2 mg/dl
ALT 378 IU/l
Cl 113 mEq/l
UA 5.3 mg/dl
ALP 1162 IU/l
BS 98 mg/dl
TCHO 135 mg/dl
LDH 2247 IU/l
CRP 1.3 mg/dl
TG 50 mg/dl
CHE 2646 IU/l
γ-GTP 3083 IU/l
Fig.1
今回入院時腹部CT
胆嚢内に結石及び軟部組織様の構造物、胆管内に結石様陰影(矢印)を認めた。
Fig.2
前回入院時の腹部CT
胆嚢内に結石(矢印)を認めた。
Fig.3
入院翌日の上部消化管内視鏡検査
 十二指腸には血液の貯留を認めた(左)が、胃内にはあまり認めなかった(右)。
Fig.4
ERCP所見
 十二指腸乳頭からの血液排出(左右上、左下)と、総胆管内の透亮像(右下)を認めた。透亮像は一部は円形、一部は棍棒状であった。この後、ESTを行わずに7FrのENBDチューブを挿入したが自己抜去された。
Fig.5
ERBDチューブ留置
 ボスミン入り生理的食塩水で胆道洗浄後に、7FrのERBDチューブを挿入・留置した。血液が十二指腸乳頭部から流出しているのが認められた。
考察 胆道出血(hemobilia)は稀な病態であり、吐下血を来す上部消化管出血の2〜5%といわれている1)。
 その病因として、Sandblomは、外傷(手術によるものも含む)、炎症、胆石、腫瘍、血管異常などを挙げており、彼等の集計では、胆石症によるものは約15%を占めていた2)3)。また、出血部位として胆嚢は23%を占め、胆嚢出血の約半数は胆石によるものであったと報告している。また近年、PTC、肝生検などの医原性肝外傷による出血の報告が増えている4)7)。
 診断に関しては、Vater乳頭部から流出する鮮血が確認され画像診断にて緊満腫大した胆嚢が描出された場合には比較的容易であるが、報告例の多数は消化性潰瘍、原因不明の消化管出血、急性腹症などと診断され、また緊急的処置を要するため術前に出血源が確定し得ない場合も多い6)。吐下血を起こした症例の緊急内視鏡検査で食道・胃に出血源を確認し得ない場合、十二指腸も確認することが重要と考えられる。胆道出血が確認し得た場合の部位診断には血管造影が一般的だが、明らかな所見が得られない場合もある9)。報告によると内視鏡検査でVater乳頭部からの出血が約30%で確認でき、血管造影では直接所見であるextravasationや消化管への造影剤の漏出が約25%で認められるが、間接所見である動脈瘤、偽動脈瘤及びarterio-portal shunt等で出血源を示唆することができるとされている4)。
治療に関しては、少量出血の場合には保存的治療で止血を図る。例えば胆道内にドレナージカテーテルの挿入留置されている症例では、1)生理的食塩水で胆管内をよく洗浄し、止血剤の点滴をする、2)カテーテルを径の太いものに交換して血管を圧迫することで対応する5)。大量出血の場合はただちに血管造影の下に、その病態に応じて血管塞栓術を行うか、開腹し止血術を行うか治療方針を決定する。胆嚢出血が確定し得れば胆嚢を摘出する。胆嚢出血は診断さえ遅れなければ胆嚢摘出術により手術的止血が容易であり予後も良好であるとされている9)。
 また胆道ドレナージには直接的な止血効果はないが、胆嚢結石による胆嚢内腔血腫には経皮経肝胆嚢ドレナージ(PTGBD)で対処できることが少なくないとされており7)9)、ドレナージによって胆道内圧を下げることにより出血巣などになっている死腔を縮小させ治癒を促進するという意見もある8)。
 本症例は、通常の上部消化管内視鏡検査では食道・胃に出血部位を確認できなかったが、胆嚢結石・胆嚢炎で入院歴があり、今回も腹部CT・血液検査にて胆道炎症が明らかなことから胆道出血(おそらく胆嚢出血)が疑われた。又慢性腎不全などのため血管造影・緊急胆嚢摘出手術のリスクが高いこと、血小板数が減少し播種性血管内凝固症候群(DIC)に陥りつつあると考えられたことから、まず緊急ERC及び胆管ドレナージを施行したが、それで止血が得られた。保存的治療のみで止血されない胆道出血症例で、高齢で重篤な疾患を有する場合には、胆道ドレナージ及びボスミン入り生理的食塩水による胆道洗浄はとりあえず試みる価値のある治療法と考えられた5)。
結語 1)原因不明の上部消化管出血が続いた場合、胆道出血を疑う必要がある。
2)ハイリスクの胆道出血症例に対して、胆道ドレナージ・胆道洗浄は試みる価値のある治療法である。             
文献 1)李俊尚、柴中光一、平田賢一、植木秀実、浦岡忠夫:いわゆる特発性胆道出血の1例. 日本臨床外科医学会雑誌 1990;51:380-384.
2)Sandblom P :Hemorrhage into the biliary tract following trauma “Traumatic hemobilia.” Surgery 1948;24:571-586.
3)Sandblom P :Hemobilia. Thomas Co,Springfield,Ilinois, 1972;5-117.
4)西広和、鐘撞一郎、末吉健志、田仲斉、堀晃、安谷正、大城潔:胆道出血(hemobilia)に対する動脈塞栓術. 中部病院医誌 1995;21:35-38.
5)谷崎裕志、竜崇正、木下平、河野至明、小西大、趙明浩、杉田光隆、高橋進一郎、古瀬純司、岩崎正彦:PTCDによる胆道出血の検討. 日本腹部救急医学会雑誌 1996;16:539-543.
6)田中譲、羽生富士夫、中村光司、今泉俊秀、吉川達也、大橋正樹、鈴木衛、三浦修、新井田達雄、梁英樹、延島茂人、松山秀樹、竹田秀一、白井聡、日高真、熊谷義也:下血の原因診断に難渋した胆石症・胆道出血の1例. 胆と膵 1988;9:123-127.
7)谷村弘、笠野泰生:胆道出血. 肝胆膵 1996;33:819-822.
8)佐藤寿雄、植松郁之進、松代隆:胆道出血. 臨床成人病 1975;5:1287-1295.
9)坂本洋一、松毛真一、高橋康幸:胆嚢炎に起因する胆嚢出血の1例. 日本消化器外科学会雑誌 1992;25:2388-2392.