表題  内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージが奏功した急性胆嚢炎の1例
著者   井野病院  内科  森本真輔 他
発表誌 兵庫県医師会医学雑誌 第46巻第2号 別冊 
 平成15年12月20日発行
Key words 急性胆嚢炎、内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ
要旨 症例は76歳、男性。右季肋部痛、嘔吐、発熱のため入院となった。血液検査、腹部CT・超音波から、急性胆嚢炎と診断した。絶食・抗生物質の点滴を行ったが改善が見られず、内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)を施行した。症状は速やかに消失し、その後の経過は順調であった。後日、本症例に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。
症例 Y.F. 76歳、男性
主訴;右季肋部痛、嘔気・嘔吐、発熱
家族歴;姉2人が胃癌、兄に高血圧、肝臓癌
既往歴;61歳時に脳血栓症、75歳時に内視鏡的大腸ポリープ切除術、76歳時に陰嚢水腫手術
現病歴;平成14年9月29日にゆで卵を2個食べた後、右季肋部痛・嘔吐が出現した。翌30日に急病センターにて点滴を受けて疼痛は若干軽減したが、嘔気は続き、発熱・黄疸を伴うようになり、10月1日に当院を受診、精査加療目的で入院となった。
入院時現症;身長166.5 cm、体重82 kg、体温37.4 ℃、血圧144/70 mmHg

眼球結膜に黄染、右季肋部に圧痛を認めた。
入院時検査;白血球数10200 /μlと増加、血小板数96000 /μlと減少、肝胆道系酵素の上昇、黄疸、腎機能障害を認めた(Table 1)。
腹部CT;脂肪肝の所見を認めた。胆嚢を含め胆道系に異常所見を認めず、結石の存在も明らかではなかった(Figure 1)。

腹部超音波検査;胆泥の貯留・胆嚢の軽度拡大を認めた。総胆管は径11mmと拡張していたが、肝内胆管の拡張は認めず、結石の存在は明らかではなかった(Figure 2)。

絶食の上、持続点滴・抗生物質の点滴側注を行ったが、翌日になっても発熱・疼痛は続き、血小板数は66000 /μlとさらに減少した。明らかな出血は認めなかったが、播種性血管内凝固症候群(disseminated intravascular coagulation ; DIC)に陥りつつあり、保存的治療の限界で胆嚢ドレナージが必要と考えた。ただ胆管結石の存在も否定できないと考え、まずは精査目的にて内視鏡的膵胆管造影(endoscopic retrograde cholangiopancreatography;ERCP)を施行した。

ERCP所見;十二指腸乳頭の発赤・腫脹及び開口部からの混濁した胆汁の排出を認めず、胆管造影では総胆管に結石陰影を認めなかった。引き続いて内視鏡的乳頭括約筋切開術(endoscopic sphincterotomy;EST)を施行しガイドワイヤーを胆嚢管から胆嚢内へ誘導後、経鼻胆道ドレナージチューブを胆嚢内へ挿入留置した(Figure 3, 4)。チューブから濃緑色混濁した胆汁の排出が認められた。

その後、発熱・右季肋部痛は速やかに消失した。約24時間後、患者がドレナージチューブを自己抜去したが、症状がなかったため、そのまま点滴のみで経過を見たが、血小板数を始め検査値は徐々に正常化し、ETGBD施行後3日目から経口摂取も開始でき、経過は順調であった(Figure 5)。チューブ留置に伴う合併症は認めなかった。

その後、点滴静注胆道造影(drip infusion cholangiography;DIC)を行い、胆嚢の描出が不良であったため、腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した(Figure 6)。その際に胆嚢の癒着は殆どなく、結石も認めなかった。組織学的には、胆嚢の表層部にビラン・強い炎症細胞浸潤を認めた。
Table 1)  Laboratory studies on admission.
Hematology
WBC 10200/μl
RBC 495×104/μl
Hb 16.1 g/dl
Ht 46.5%
Plt 9.6×104/μl
HBsAg (−)
HCV-Ab (−)
CEA 3.6 ng/ml
Blood chemistry
TP 6.5 g/dl
ALB   3.6 g/dl
BUN 51.8 mg/dl
Crea  2.8 mg/dl
UA 6.7 mg/dl
T-Cho 135 mg/dl
TG 123 mg/dl
T-Bil 4.2 mg/dl
D-Bil 3.5 mg/dl
AST 133 IU/l
ALT 287 IU/l
ALP 450 IU/l
LDH  436 IU/l
CHE 4118 IU/l
γ-GTP 381 IU/l
CPK 110 IU/l
AMY 154 IU/l
Na 136 mEq/l
K 3.66 mEq/l
Cl 99 mEq/l
BS 137 mg/dl
CRP 17.6 mg/dl
Figure 1 入院時腹部CT
脂肪肝の所見を認めた。胆嚢に異常所見を認めず、胆管拡張も認めなかった。
Figure 2 入院時腹部超音波検査
 胆泥を認めたが、結石の存在は指摘できなかった。
総胆管径は約11mmと拡張を認めた。
Figure 3 ERC・ETGBD所見
 ERCにて総胆管に結石を認めなかった(左上)。引き続いてガイドワイヤーを胆嚢管から胆嚢内に挿入(右上)後、経鼻胆道ドレナージチューブを胆嚢内に留置した(下)。
Figure 4 十二指腸乳頭所見
 傍乳頭憩室を認めた。乳頭に発赤・腫脹を認めなかった(左上)。乳頭小切開(右上)後、ガイドワイヤー法(左下)にて、経鼻胆道ドレナージチューブを胆嚢内に挿入・留置した(右下)。切開時の出血、後出血とも認めなかった。
Figure 5 経過表
Figure 6 摘出された胆嚢
 その後、本症例に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した。胆嚢粘膜表層部にビランを認めた。
考察 急性胆嚢炎は、臨床では比較的よく経験する疾患で、90〜95%は胆石に起因し、胆嚢管か胆嚢頚部に嵌頓した結石による胆嚢内胆汁うっ滞が発症の引き金となっている。一方、残り5〜10%は手術時に結石が証明されなかった急性無石胆嚢炎で比較的稀な疾患であり1)、長期に及ぶ疾病、外傷、高度の熱傷、重篤な感染症、外科手術後、鎮静剤など薬剤の過剰投与などを背景に、全身状態の悪い患者に発症しやすく、そのため予後は通常の有石胆嚢炎に比較するとはるかに不良で、20〜30%という高い死亡率が報告されている2)。本症例は、画像診断や手術時に結石が確認できず、十二指腸乳頭に発赤・腫脹が認められず急性無石胆嚢炎と診断したが、それほど重篤な疾患を有しておらず全身状態は比較的良好であり、また胆道系酵素の上昇・総胆管の軽度拡張が認められたことから、微小結石が胆嚢から総胆管を経て十二指腸にまで速やかに排泄された可能性は否定しきれないと考えられた。
 急性胆嚢炎の治療に関して、症例の多くは保存的治療で改善を見る3)。しかし結石の嵌頓による胆嚢管閉塞のため胆嚢内圧が上昇し壞疽性胆嚢炎や胆嚢穿孔などにより緊急手術に至る症例も少なくない。これら急性胆嚢炎症例に対し、緊急胆嚢ドレナージ法として経皮経肝的胆嚢ドレナージ(percutaneous transhepatic gallbladder drainage:PTGBD)がきわめて有効な治療法として確立しており、高齢者や合併症を有するハイリスク患者に対しても容易かつ安全に行うことが可能である。しかしPTGBDでは、カテーテルを留置しない1回穿刺法を除いて長期間のドレナージを要し3)、その後の手術難易度の増強を来すとの意見があり6)7)、また播種性血管内凝固症候群(DIC)を併発し出血傾向を有する例や、術後の体動制限が守れない例では実施困難である。それに対して内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(endoscopic transpapillary gallbladder drainage:ETGBD)は出血傾向を有する症例にも比較的安全で、胆管病変を有する症例には特に有用で3)4)、またその後の手術難易度に影響しないとされている。
 1990年以降ETGBDの報告が散見されるようになってきたが、ETGBDは技術的に困難で成功率が劣るためか報告も少なく、未だ標準的治療法としては確立していない。またETGBD時のESTの是非については、行った方が胆嚢管へのカニュレーションやチューブ挿入が容易になるとされているが、一方、乳頭機能に影響を与えず出血傾向を有する症例でも安全であるという利点を残す観点から原則的に施行すべきではないとの考え方もある4)5)。またETGBDには、合併症として胆嚢管穿孔の報告もある。症例数を集積して更なる検討が必要と考えられる。今後、技術の向上、処置具の改良などによりETGBDの成功率が高まれば、急性胆嚢炎においても積極的にERCPを施行し、胆道系全体の詳細な情報を得てから、病態に応じてETGBDを含む適切な治療法を選択、さらには胆嚢二重造影、直接胆石溶解療法などへと展開できる可能性がある6)。
本症例もERCPによって胆管病変が否定でき、ETGBDにて胆嚢炎の治療後に腹腔鏡下胆嚢摘出術へと展開できた。また手術時には胆嚢に癒着を殆ど認めなかった。
結語 内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)が奏功した急性胆嚢炎の1例を報告した。急性胆嚢炎症例に対してもERCPを行い胆道系全体の詳細な情報が得ることは治療方針決定の上で重要と考えられた。またETGBDは出血傾向を有する例にも施行可能で、胆嚢病変の診断と治療に有用であると考えられた。
本論文の要旨は第70回日本消化器内視鏡学会近畿地方会において発表した。
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3)三並敦、中津敏明、内田尚仁、平林修子、北条和佳子、福間博基、西岡幹夫:ETGBD(Endoscopic Transpapillary Gallbladder Drainage)が奏功したDIC併発急性胆嚢炎の1例. 胆と膵 1994;15:1245-1249
4)徳光誠司、綱島武彦、一ノ宮隆行、中西豊、深津裕寿、松本栄二、藤原秀哉、児玉尚伸、長沼篤、安田浩一朗、寺坂律子、岡田康男、真弓勝志、福田淑一、寺倉政伸、小山c甫:急性胆嚢炎症例に対する内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ術(ETGBD)の検討. 胆と膵 2001;22:995-1001
5)松元淳、有馬暉勝:急性胆嚢炎に対する経乳頭的胆嚢ドレナージ術-現状と展望. 消化器内視鏡 1996;8:1619-1625
6)印牧直人、中澤三郎、山雄健次、芳野純治、乾和郎、山近仁、藤本正夫、若林貴夫、岩瀬輝彦、三好広尚、滝徳人、杉山和久:結石による胆嚢管閉塞に対する内視鏡的経乳頭的胆嚢ドレナージ(ETGBD)の臨床的検討. Gastroenterol Endosc. 1996;38:1047-1056
7)橋本隆、梶原建熈、谷友彦、小西豊、高峰義和、奥野敏隆、福原稔之、有吉孝一:急性胆嚢炎の治療-治療方針-. 腹部画像診断 1994;14:194-200