表題  術前悪性腫瘍と診断した腸結核症の1
著者  井野病院 外科医師  林 悟  
発表誌  日本臨床外科学会雑誌 第652410-413,2004
論文種別  症 例
和文抄録 症例は40歳女性、腹部膨満、嘔吐を主訴に来院した。内視鏡検査にて横行結腸に閉塞を認め、悪性疾患と診断し開腹手術を行った。手術所見では右側結腸および終末部回腸に多発性の病変を認めた。70cmの終末部回腸切除を伴う右半結腸切除術を施行した。摘出標本の所見では、結腸、回腸に多発性の壁肥厚を伴う潰瘍形成を認め、組織所見では乾酪壊死巣と巨細胞を伴う肉芽腫を認めた。Ziehl-Neelsen染色では巨細胞の胞体内に抗酸菌を認め、腸結核と診断した。特に基礎疾患を認めない症例においても、腸結核の存在を念頭に置いた診療が必要であると考えられた。
緒言 最近われわれは特に基礎疾患を認めない若年女性に腸閉塞で発症し、術前悪性疾患を疑い開腹手術を行った腸結核の1例を経験した。
症例 ●症例:40歳女性
●主訴:腹部膨満、嘔吐
●既往歴:15歳時に虫垂炎にて虫垂切除術を施行、22歳の時B型肝炎のため、2ヶ月間の入院加療を受けた。
●家族歴:同居した祖父に肺結核を認めた。
●現病歴:平成14年8月11日夕方より、吐気が出現、夜までに5〜6回嘔吐、救急車にて来院、腸閉塞の診断で入院した。

入院時現症:身長158cm、体重42kg、やせ型であるが、体重の増減は自覚していない。腹部は膨満し腸蠕動の亢進を認めた。右下腹部に可動性良好な手拳大の腫瘤を認めた。表在リンパ節を触知しなかった。

血液検査所見:白血球数18100、CRP2.0と炎症所見を認めたが、一般抗生剤の使用にて1週間後には白血球数3000、CRP0.7と正常化した。HBs-Ag+、HBs-Ab-、CEA 0.9、CA19-9 12と腫瘍抗原の上昇を認めなかった。

腹部X線:下腹部に水面形成を伴う小腸ガス像を認め腸閉塞と診断した(図1)。

大腸内視鏡検査:横行結腸中央部に粘膜の肥厚による狭窄を認め、ファイバースコープは通過し得なかった(図2)。同時に行ったガストログラフィンによる注腸造影では横行結腸中央部での途絶像がみられた(図3)。同部の生検では確定診断は得られなかった。

腹部CT:右側結腸に全周性、広範囲な壁肥厚を認めた(図4)。

腸閉塞は、入院後絶食にて軽快したが、横行結腸癌と考え、開腹手術を行った。

手術所見:腹腔内には腹水の貯留なく、播種性転移、肝転移を認めなかった。横行結腸右側より盲腸にかけて長い範囲で病変を認めた。また回腸終末部60cmにわたって6箇所の病変を認めた。腸間膜のリンパ節腫脹は顕著であった。最も口側の病変に分布する回腸動脈に沿って血管の処理を行い、中結腸静脈は根部にて処理した。約70cmの回腸切除を伴う右半結腸切除となった。

切除標本:結腸では著しい壁肥厚を伴う広範な潰瘍を、回腸では多発性の不整な潰瘍形成を認めた(図5)。

病理組織所見:UL-V相当の深い潰瘍の下に、乾酪壊死を伴う肉芽腫が存在した。強拡大では乾酪壊死巣の周囲に類上皮細胞、ラングハンス型巨細胞を認めた(図6)。Ziehl-Neelsen染色では巨細胞の胞体内に抗酸菌を認めた(図7)。

以上より腸結核症と診断した。

術後の検査では、喀痰への排菌は認めず、ツ反は28×20mm、発赤+であった。

術後経過は、順調で、小腸の短縮に伴う下痢などの症状は見られなかった。現在外来にて抗結核薬を投与中である。
考察 肺外結核は、本邦ではまれではあるが、最近の結核羅漢率の増加傾向に伴い上昇傾向を示している。

従来、腸結核は、肺結核からの管内性感染と考えられおり、剖検例の報告では腸結核単独の症例は少ない1)が、胸部X線上肺結核の所見を伴わないいわゆる原発性腸結核の割合が増加しており、最近の報告例の半数以上は原発性腸結核である2)。本症例も原発性腸結核と診断した。剖検例では、高齢者に多く、悪性腫瘍の合併も高率に見られる。臨床報告例でも、高齢者に多く、若年者では、膠原病の合併、著しい低栄養状態における外国人の発症など免疫不全の関与が示唆される症例が多いが、本症例の様に特に基礎疾患を認めない発症例も報告されている1) 3)-5)

好発部位は、回盲部であり、腸内容が生理的に停滞しやすいこと、リンパ組織が多く、結核菌がリンパ組織との親和性を有することがその理由とされている6)

臨床症状は、腸閉塞、瘻孔形成、出血、穿孔、腫瘤の触知と多彩で特有のものはなく、クローン病、悪性疾患、感染症、真菌症、放射性腸炎など様々な疾患との鑑別がしばしば困難である7)-10)

腸結核の診断は、1.培養または組織の動物接種による結核菌の証明2.病変部の病理学的検索による結核菌の証明3.病変部の組織から乾酪壊死巣を伴った肉芽腫の証明4.手術所見での典型的肉眼所見の4項目のうち1つ以上が必要とされている11)

大腸内視鏡検査では、周囲の粘膜肥厚と多発性のびらんを伴う横方向の潰瘍病変が最も特徴的であるが、病期、宿主の免疫状態などにより肥厚による腫瘤形成、潰瘍と肥厚の混在など様々な所見を呈する12)。確定診断は、生検組織の結核菌培養、Ziehl-Neelsen染色による菌体の検出、PCR法等によるがいずれも単独での陽性率は低いため、十分な組織量を深い生検で採取する必要がある。

治療は、穿孔例を除き抗結核剤による保存的治療が優先される。通過障害などのため手術が考慮されるが、当然、QOLに配慮した術式が選択されるべきである。

大腸癌と術前診断した腸結核の1例を経験した。原発性腸結核症例の報告例は増加しており、特に基礎疾患を認めない症例においても結核も念頭に置いた注意深い診療が必要である。
文献

1) 鈴木弘文,長尾啓一,宮崎勝:病理剖検輯報の記載から見た腸結核の動向と問題点.結核 77:355-360,2002

2)   八尾恒良,櫻井俊弘,山本淳也他:最近の腸結核ー10年間の本邦報告例の解析.胃と腸 30:485-490,1985

3)   水谷宏,堀場通明,進藤丈他:活動性結核と腸結核を合併し腹水中抗酸菌塗抹陽性にて診断し得た結核性腹膜炎の1例.結核 76:479-484,2001

4)   黒田文伸,八木毅典,山岸文雄他:腸結核による穿通性腹膜炎に対し回腸・横行結腸切除,一時的回腸瘻造設にて救命しえた重症肺結核の1例.結核 77:563-567,2002

5)   高木眞人,佐藤茂樹,蓮江健一郎他:イレウスを起こした結核性腹膜炎の1例.日臨外会誌 63:2552-2557,2002

6)   Richter JM:Case  records of the Massachusetts General Hospital.N Engl J Med 309:96-104,1983

7)   岩崎吉伸,中川雅夫:消化器系結核.日本臨牀 56:116-119,1998

8)   Arnold C, Moradpour D, Blum HE:Tuberculous colitis mimicking Crohn's disease.  Am J Gastroenterol  93:2294-2296,1998

9)   大島貴,今田敏夫,池秀之他:大腸癌と術前診断した大腸結核の1例.日臨外会誌 63:2485-2488,2002

10)  森脇義弘,望月康久,菊池光伸他:放射性性腸炎との鑑別が困難であった回腸結核穿孔の1例.日消誌 97:1391-1394,2000

11)  Paustian FF,Marshall JB:intestinal tuberculosis. In Berk JE, et al(eds), Bockus Gastroenterology, vol3, 4th ed., WB Saunders, Philadelphia, 1985, p2085

12) Intestinal tuberculosis: Kim KM, Lee A, Choi KY, et al. clinicopathologic analysis and diagnosis by endoscopic biopsy. Am J Gastroenterol 93:606-609, 1998

英文

A CASE OF INTESTINAL TUBERCULOSIS DIAGNOSED AS MALIGANANT DISEASE PREOPERATIVELY

Satoru HAYASHI, Yoshitaka TAKEDAand Riko KITAZAWA**

Department of Surgery, Ino Hospital

Red Cross Clinic Kobe Suma

**Division of Molecular Pathology, Kobe University Graduate School of Medicine

A 40-year-old woman was admitted to the hospital because of abdominal fullness and vomitting. Endoscopic study showed a severe stenosis in the transverse colon. Malignant disease was diagnosed and a laparotomy was performed.

On exploration, multiple lesions with noted mesenteric nodal swelling were found in the right side colon and the terminal ileum. A right hemicolectomy with a resection of the terminal ileum by 70cm was performed.

There were multiple deep ulcers with inflammatory wall thickening in the resected material and histlogical examination revealed caseous necrosis and granuloma containing giant cells. Acid-fast bacilli were seen on a Ziehl-Neelsen stained specimen. We confirmed the diagnosis of primary intestinal tuberculosis.

Surgeons should be aware the presence of primary intestinal tuberculosis even in non-risk groups of patients.

索引用語 原発性腸結核、術前診断。Ziehl-Neelsensen染色