表題  ステント留置と経皮経食道胃管挿入術(PTEG)を行った
幽門狭窄を来した進行胃癌の1例
著者   井野病院  内科  森本真輔 
発表誌 姫路市医師会報 第319号 別冊 
 平成17年7月発行
はじめに  進行胃癌の進展により幽門狭窄を来した場合、従来はバイパス手術を施行するか、経鼻胃管による減圧と中心静脈栄養を行う以外に治療法はなかった。このたびステント留置と経皮経食道胃管挿入術(percutaneous transesophageal gastro-tubing;PTEG)を行うことによって、全身状態が改善され経口摂取が可能となった、幽門狭窄を来たした進行胃癌の症例を経験したので、報告する。
症例 ●患者K.M. 93歳、女性
主訴コーヒー残渣様嘔吐
●家族歴:特記すべきことなし
●既往歴平成14年11月に頻尿を主訴として来院、その際に行った血液検査で貧血(RBC329万/μl、Hb7.2 g/dl)を認めた。精査目的で上部消化管内視鏡を行い胃角部に1型胃癌を認め、手術を勧めたが、高齢・認知症であること、特に症状がなく経口摂取できていることなどから家族が手術を拒否した。そのため経過を見ていたが、RBC 285万/μl、Hb 4.9 g/dlとさらに貧血が進行したため平成15年4月23日から6月8日まで入院し、MAP 6単位輸血と鉄剤投与を行い貧血を改善させた。その後、外来で保存的治療を継続し、全身状態・血液検査所見とも安定していた。平成15年11月25日、コーヒー残渣様の嘔吐を来して外来受診し、精査加療目的で入院となった。
●入院時検査(Table 1):貧血を認めず、CEAが5.7と軽度高値を示した。
Table 1)  入院時血液検査
RBC 444×104/μL
Hb 13.7g/dL
Ht 40.2%
WBC 9900/μL
Plt 28.3×104/μL
TP 7.1g/dL
BUN 18mg/dL
Cre  0.6mg/dL
T-Cho  192mg/dL
T-Bil 0.6mg/dL
AST 16IU/L
ALT 15IU/L
ALP  249 IU/L
LDH  176IU/L
γ-GTP  21IU/L
sAMY 87 IU/L
BS 138mg/dL
Fe 40μg/dL
CEA 5.7ng/mL
上部消化管内視鏡(Figure 1):平成14年11月25日には、胃角部に1型の腫瘍を認め、生検の結果は中分化型腺癌であった。平成15年11月25日には、病変は潰瘍を形成し粘膜下を這うように進行し、幽門狭窄を来しスコープの通過は不可能であった。腹部CT(Figure 2):明らかな転移を認めず、胃壁の肥厚を認めるのみであった。
臨床経過:経鼻胃管を挿入し減圧・排液を、加えて中心静脈栄養カテーテルを挿入・留置しH2ブロッカーと止血剤の点滴を行い、経過を見た。徐々に発語もなくなり全くの寝たきり状態となった。経鼻胃管からの排液は入院当初はコーヒー残渣様であったが、徐々に透明になり、血色素量の低下も10 g/dl代で止まり、全身状態は安定した。明らかな転移を認めなかったこともあり、家族に対して改めて外科手術(バイパス手術)を勧めたが拒否されたため、インフォームドコンセントのもとステント留置を行うことにした。
ステント留置:内視鏡下にガイドワイヤーを狭窄部を通過させ、バルーン拡張を行い、内視鏡が通過可能となった(Figure 3)。その後狭窄部の肛門側、口側にクリップにてマーキング後、あらかじめプラスチックチューブを繋いでデリバリーシステムを延長しておいたボストンサイエンティフィック社製ウルトラフレックス食道用ノンカバードステントproximal release typeをガイドワイヤーに沿わせ、用手圧迫など行い、狭窄部に留置した(Figure 4)。ステント展開時に口側に押し戻される力がかかり、当初の予定よりも口側に留置する結果となったが、ほぼ胃粘膜に密着し内腔は保持され、造影剤の通過は良好であった。穿孔、出血などの偶発症を認めず、経鼻胃管を抜去したが嘔吐は見られなかった。
1週間後の内視鏡像:ステントは十分に開存しており内視鏡は通過可能で造影剤の通過も良好であった(Figure 5)。
 しかし意識レベルは変わらず、経口摂取出来る状態ではなかった。そこでさらなる全身状態改善を目指して、PTEGを施行し経腸栄養を開始した(Figure 6)。徐々に栄養剤の注入量を増量したが、特にトラブルなく順調に進み、点滴を中止できた。そして栄養状態とともに意識レベルも改善し、発語も活発になり、車イスへ移動したり、少量のゼリーやミキサー食の経口摂取も可能となった。PTEGボタンの交換は2カ月に1回、透視下で行い、その際にガストログラフィンを注入してステントの開存を確認した。しかし残念なことにPTEG施行の約4カ月後に嘔吐・誤嚥から急性呼吸不全を来たし、死亡した。

左)平成14年11月25日  右)平成15年11月25日
Figure 1
上部消化管内視鏡像
左;胃角部に1型の腫瘍を認めた。
右;1年の経過で腫瘍は3型に変化し幽門狭窄を来たし、内視鏡の通過は不可能であった。
Figure 2
腹部CT像
胃壁の肥厚像を認めた。明らかな転移は認めなかった。
Figure 3
狭窄部のバルーンによる拡張
内視鏡の幽門輪の通過は不可能であった(左右上)が、バルーンによる拡張を行い(左下)、通過可能となった(右下)。
Figure 4
ステント留置
ガイドワイヤーに沿わせて、あらかじめデリバリーシステムを延長しておいたステントを用手圧迫などを用いて狭窄部に誘導し、展開・留置した。ステントは胃粘膜に密着し、造影剤の通過も良好であった。
Figure 5
ステント留置1週間後
ステントは十分に開存しており、造影剤の通過は良好で、内視鏡の通過も可能であった。
Figure 6
PTEG
住友ベークライト社製PTEGセットを用い、大石らの方法によってPTEGを施行した。
考察 従来、治癒切除不能な悪性幽門狭窄症例を経口摂取可能とするためには、開腹によるバイパス手術に頼るしかなかった。
 近年、そのような症例に対して、狭窄部へのステント留置が試みられている。本治療は、開腹術と比べて低侵襲に、かつ短期間で経口摂取が可能となりQuality of Life(QOL)を損なうことがないとの報告がなされ、有用性が認められつつある。また化学療法を行っている症例では、バイパス手術を行うと、次のクール開始時期が遅れる可能性が高く、その意味でもステント留置は有用であると考えられる。しかし現在使用可能なステントのデリバリーシステムは食道用であり短くて柔らかく胃大湾でのたわみにより留置が困難な場合が多い。 ステント留置の経路としては経胃瘻的アプローチと経口的アプローチとがあるが、もともと胃瘻が造設されていた症例以外ではかえって患者への侵襲が強くなり、偶発症の可能性が高くなると思われる。しかし本症例のようにすぐには経口摂取できそうにない場合、まず胃瘻を造設し、瘻孔が完成した後に経胃瘻的にステント留置を行うことも有用かと考えられる1)2)。
 経口的アプローチでステントを確実に狭窄部位まで到達させるためには、オーバーチューブの挿入、太いガイドワイヤーの使用、デリバリーシステムを延長したステントの使用3)、V字鰐口鉗子によるステントのアシスト、用手圧迫といった工夫が必要になる。
ステント留置に伴う偶発症としては穿孔、出血などが考えられる。また、distal release typeはproximal release typeと比較して、ステントを狭窄部に留置する際にデリバリーシステムを狭窄部よりもさらに肛門側まで挿入しなくてはならないため、十二指腸穿孔の可能性が高くなると考えられている2)。
 本症例では、経口的に、予めプラスチックチューブを用いてデリバリーシステムを延長したproximal release typeのステントを使用し、透視下に用手圧迫をしながら狭窄部に留置し、経鼻胃管を抜去できた。
 さらに全身状態の改善を図るため経腸栄養を行うことを考えた。入院前は十分に経口摂取できていたこと、及び明らかな転移が認められなかったことなどから、少なくとも数カ月間の生命予後と少量の経口摂取が期待できると考え、経皮的内視鏡下胃瘻造設術(PEG)の適応ありと判断した。ただPEGに際して穿刺部位がステントの口側端に当たる場所であるので、PEG困難例と考え経皮経食道胃管挿入術(PTEG)を選択した。PTEGは住友ベークライト社製PTEGセットを用い、大石らの報告に従って行った4)。経腸栄養で全身状態が改善し、短期間であったが家族とのコミュニケーションも取れ、少量の経口摂取もでき、この両治療がQOLの改善に寄与したと考えられた。
結語 ステント留置と経皮経食道胃管挿入術(PTEG)は幽門狭窄をきたした進行胃癌の治療法として有用であると考えられた。
 本論文の要旨は第73回日本消化器内視鏡学会近畿地方会において発表した。
文献 1)森昭裕、奥村昇司、大橋憲嗣他:工夫したステント留置が有効であった幽門狭窄を伴う末期胃癌の1例、Gastroenterological Endoscopy. 1999;41:1193-1197
2)島谷茂樹、小山恒男、宮田佳典他:癌性幽門狭窄に対する内視鏡的stent 留置術 ENDOSCOPIC FORUM for digestive disease. 2001;17:142-147
3)前谷容、多田知子、浮田雄生:ステントによる幽門狭窄解除、消化器内視鏡 2002;14:1321-1322
4)亀岡信悟、城谷典保、大石英人:PTEG手技マニュアル 2004年9月改訂版